岡田高明の〖地方の自律化・活性化をめざすサイト〗です。内容を閲覧する場合は各記事紹介枠の任意の箇所をクリックしてください。

食糧安全保障危機-食肉自給率を上げるための方策!

地方開拓

 政府は防衛予算を増額したり、経済安全保障推進法を制定したりと国民の命と生活を脅かす世界情勢に対抗するための準備を急いでいますが、最近の世界の動きの中で各国のリーダーが最も注力している問題が「食糧安全保障」です。
 たとえば、中国の習近平国家主席は先の全国共産党大会で、「中国は農業志向である」と断言しており、大会後第一に訪れたのは湖南省の農村でした。
 また、EUでは、ウクライナが穀物を超安価に売りつていることに対し、怒った農民が方々で暴動やストライキで猛烈に抗議しいます。しかしウクライナの穀物を止めれば国民の命が脅かされるので政府は制裁を課しているロシア産の小麦を密かに輸入しています。国家も農民も生き残りを賭けて死に者狂いです。
 これらの事態の原因は二つあり、一つは米国が背後で関わっている各地の武力紛争と、これも米国が大きく関わっている大農業資本による独占的な生産方式です。
今や従来からの小農による食料主権が脅かされています

 食料主権とは、フードシステムをコントロールする権利を持っているのは企業や市場ではなく、生産者・流通業者・消費者だということを強調する政治活動です。

 私は以前に中国で牛やダチョウを肥育した経験から、現在の日本の食肉環境が国民の安全保障上いかに危機的な状態にあるのかを強く感じています。
 日本で常時食べている肉類は、主に牛肉、豚肉、鶏肉の3種類です。
 それぞれ、食卓用と業務用で消費されていますが、牛肉を例にとりますと、食卓用は約45%です。
 これらの肉の消費重量は年度によって変化しますが、日々の食べ物ですから大きくは変わらず、最近の平均的な重量は下記のようになっています。

牛肉 輸入 57万トン
牛肉 国産 32万トン (自給率 36%)

豚肉 輸入 180万トン
豚肉 国産 92万トン (自給率 34%)

鶏肉 輸入 57万トン
鶏肉 国産 166万トン (自給率 74%)

 これらの数値から明らかなように、消費重量の多い順に豚肉、鶏肉、牛肉の順になっていますが、単価の安い鶏肉より豚肉の方が消費量が多くなっているのは、鶏肉の好きな私にとっては不思議です。
 また自給率ですが、全体的に思った以上に高いのは不思議です、牛肉と豚肉は特に高すぎると感じます。

我が国の食肉政策の問題点

 今回の記事は食糧安全保障の観点から考察していますので、食肉政策として気になっていることを問題提起します。

1.それぞれの食肉の国産の割合、つまり自給率は上にまとめた通りですが、一方で国産家畜に給餌する飼料は、約75%が輸入に頼っています
 したがって、例えば牛肉の場合36%の自給率に対し、これらの牛に給餌している国産飼料は36%×0.25=9%となっています。
 つまり、自給率は牛肉で9%です。
 同様の計算で豚肉は8.5%鶏肉は18.5%になります。
 実質上の自給率はこのように極めて低い状態ですから、たとえばウクライナ紛争のように輸入先に供給上の問題が発生すれば、たちまちにして大きな打撃を受けます。
 日本の食肉事情は安全保障上極めて危険な状態にあると言えます。

2.家畜に餌を与える場合の配合飼料の重量は、TDN(可消化養分総量)という重量をもとに配合します。このTDNの元となる数値はすでに飼料で固有の数値が実験により求められており、例えばトウモロコシは非常に高い数値に、生草は非常に低い数値になります。
 これはある意味当たり前で、トウモロコシは乾燥していますし炭水化物ですから非常に高く、生草は90%以上が水分で、食べる重量の割には身に付きません。
 また、同じTDN量の飼料を家畜に食べさせても。牛と豚と鶏では身に付き方の率が異なります。
これを「飼料効率」と言っています。
この「飼料効率」は同じ牛でも、和牛とかアンガス牛とかいった品種によっても違いますが、1kg太らす(増体させる)ためのTDN量はおよそ、牛が10kg、豚が5kg、鶏が2kgです。
したがって、牛の場合9割の餌を捨てていることになります。実際には糞尿となって排出されることになります。
 おまけに日本の場合は霜降り牛肉にするためにトウモロコシのようなTDNの大きな餌を与えていますので、地球環境に悪影響を及ぼしますし、人体にも悪影響を及ぼしています。いい加減にこのような肥育方法は止めてはどうかと思います。
 しかも余談ですが、霜降り牛肉にするためにビタミンAの元となる「ベータカロチン」を0に近く制限していますほとんど病気の牛同然です。日本の畜産業者は儲けるために悪いことと知りながらこういう飼養方式を採用しています。
 食べている日本人はそういうことも知らず、旨いうまいと言って喜んでいます。
 ちなみに世界には霜降り牛肉を喜んで食べる文化はありません。

 これも余談ですが、昨年私の故郷の但馬地方の肥育方式が世界農業遺産に認定されましたが、私の子供の頃の肥育方法は非常に健全なものでした。肉質も軟やかで芳醇な赤身肉で、とても旨かったのを覚えています。
 いつ頃から今のような肥育方式になったのか、残念でなりません。

3.飼料効率の最も良い家畜はダチョウでTDN1.5kg程度です。
私は中国でダチョウを飼ったことがありますが、100kg程度のダチョウが排出する糞は1日、私の手で一握り程度の量で、糞の処理をする必要がありません。ただし味が牛肉の風味を薄くしたようなさっぱりとした肉質でお世辞にも旨いとは言えません。
 ダチョウを飼育する上でのもう一つの問題は、体重が100kg余りで、しかも足が速いので、取り扱いが困難です。とても高齢化社会には向いていません
 ダチョウがもしも取り扱いがしやすく、少しおいしければ、一挙に食肉の王者の座につくことは間違いありません。
繁殖についても、1年間に50個ほど産卵しますから最高です。
ちなみに牛は1年1頭です。

まとめ

 上で述べてきましたように、「食肉安全保障」の観点から自給率を上げる必要がありますが、「食料主権」を取り戻すことが緊急の課題です。
 そのための方策として、以下の方向で進めるのが最も現実的ではないかと考えています。

1.食肉の主体を牛→豚→鶏にできるだけシフトすることが必要です。
  そのメリットとしては、「飼料効率」が極端に上がり、自給率も極端に上がります。
  上で述べましたように牛肉の消費量を減らした分の飼料で5倍の鶏肉を生産できるからです。

2.鶏肉をもっと消費してもらうためには、今以上に肉質を向上させる必要があると考えます、そのためには鶏そのものの品種改良を行うことが重要ですし、飼料の配合の研究開発も必要です。
 日本の技術力をもってすれば必ず実現できます。

3.牛や豚は小さな農家のレベルで使用するのは困難ですが、鶏は高齢者でも扱いやすいので、日本のような小農主体の農業形態に良く適合しますし、鶏糞を循環していわゆる有機農業が可能となります。

 以上まとめますと、日本の食肉の自給率を上げるためには鶏肉へのシフトが必要不可欠であることと、牛肉の過度な霜降り志向が日本の食肉の安全保障を脅かしていることを述べたつもりです。

タイトルとURLをコピーしました