農水省は日本の水田が猫の額のように小さいことを無視し、ひたすら生産性を求める大規模農業の方向に走ったため、農民に半強制的に高価な機械を買わせ、また圃場整備と称して棚田を強引にフラット化し大きな費用負担を負わせてきました。
その結果、現在農家の採算が合わなくなり、また高齢化により大きな機械が扱えなくなり、農民が急速に稲作から手を引きつつあります。
いま日本の米需給、すなわち自給率は危機的状態にあります。
こういう状況を何とかせねばという思いから、たまたま乾田直播の技術に興味を抱き、今年は自宅の家庭菜園で約10種類の工法で稲作の省力化に向けた実験をしてみました。
そのキーテクノロジーの一つが過去3回に渡って経過報告をしてきましたバイオテクノロジーズ(株)製の「マイコス菌根菌」を使用した実験です。
この製品は、菌糸を根から長くのばしてリン酸を土壌から吸収する微生物資材で、稲の根の張りが良くなり、水田でなくても十分に水分と養分を吸収できます。
実験の内容は以前にも報告しました通り、種もみの種類が2種類、直播方法が3種類の組み合わせで、プランターで育ててみました。
【 種籾 】A.ハッピーヒル(ミャンマーの稲と日本の在来種の稲を交配した新品種)
B.コシヒカリ
【直播方法】1.種籾に直接マイコスを紛衣(まぶす)する。
2.マイコスを水に溶かし種籾を一昼夜浸漬する。
3.土の表面にマイコスを混合する。
結果は出穂することなく終わってしまいましたが、Youtube等で紹介されているような単純には成功しない技術であることを知り、いきなり田圃で実践しなくてよかったと胸をなでおろした次第です。
Youtube等で紹介されている内容は商売ベースで報じられているものが多く、かなりその技術に精通した技術者でないとミスリードされる危険性がありますので、その点を考慮しながら以下考察します。
1.直播前のマイコスの処理方法については、種籾に紛衣したものと土の表面にマイコスを混合したものについてはほとんど効果が見られず、水に溶かしたマイコス液に種籾を一昼夜浸漬したものははっきりと根の張り方に効果が見られました。
ただし、プランター全体に根が張るような状態ではなく、例えばマメ科の植物のような旺盛な根の張り方ではないので、よほど土壌の水分量が多く無い限り水稲の生育に必要な水分量を確保するのは困難というのが実感です。
また、事前の土壌の作りこみがたいへんだろうと想像できます。
結論としてはマイコスを使ったとしても一般の畑の土壌で水稲を育てることは「分結」も進まないし困難であると考えます。
現に水稲ではあるが陸稲(おかぼ)に近いハッピーヒルの方がコシヒカリより成長度が良く、一部出穂が見られました。
2.今回の実験の場合、化学肥料や農薬や除草剤を全く使いませんでしたが、実際には多くの薬剤を使って栽培しているようです。メーカーの資料を見ますと技術的な面はほとんど触れられていませんが、多くの薬剤がラインナップされています。
しかも一つ一つが慣行方式のものより高価です。
したがって、技術サービスがなければとてもマイコスを購入するだけでは成功しないと考えますし、採算面についても慣行方式に比べどの程度アップするのかのデータがオープンにされていません。
参考までに、慣行方式での経費は、人件費を除くと1反あたり8万円前後で、以前の供出価格では全くの赤字です。今年は十数パーセントアップしましたので農家も少し助かっています。
結論としては、マイコスはまだまだ開発途上の製品と考えます。
3.マイコス方式でさらに気になるのが雑草対策です。
慣行方式では、水田であることを利用した雑草対策が可能ですが、乾田方式での雑草対策ははるかに難易度が高く気になるところです。残念ながらこの点に関する情報は皆無です。
事前に耕起時点で何らかの雑草対策が必要であると考えます。
さて、今後の私の取組ですが、いよいよ来年から田圃1反、畑1反を自然農法で始めて見たいと考えています。
自然農法は、不耕起、無肥料、無農薬が基本の農法で、この基本は古いですが、最近はこの古い農法に新しい技術を注入して多くの人がいろいろな方法で農業を楽しもうとしています。
手前味噌ですが私の目標は、「100歳まで楽しめる農業」です。
今後ともこの「地方開拓最前線」のサイトに逐次状況を掲載します。